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東京高等裁判所 昭和35年(う)1523号 判決 1960年9月27日

被告人 鈴木松下

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役一年二月及び罰金七万円に処する。

被告人に対し、本裁判確定の日より三年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人が右罰金を完納しないときは、金三百五十円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

理由

一、控訴趣意第一点について、

所論は、原判決には判決に影響を及ぼすことの明らかな事実の誤認があり、その結果法令の適用を誤つた違法がある、と主張する。即ち原判決は、被告人が昭和三十五年一月十一日及同月十二日の二回に亘つていずれも被告人の自宅において桜井勲よりナイロン靴下二打半を二千七百円にて、また、ウール着尺二十二反を一万七千六百円にて、それらがすべて盗品であることの情を知りながら買い受け賍物の故買を為したとの事実を認定し、右が二個の犯罪であり、しかも併合罪の関係にあるものとして、刑法第四五条等の規定を適用し併合加重をした上、被告人に対し懲役一年二月及び罰金七万円の刑罰を科しているのであるが、被告人が右ナイロン靴下及びウール着尺を買い受けたのは一月十二日であり、右両物件は同時に買い受けたものであるから、右賍物故買の行為は一個であり単一犯である。したがつて原判決が右故買行為を二個として併合罪の規定を適用したことは、事実誤認に基く法令適用の誤りであつて、右違法は判決に影響を及ぼすこと明らかである、と主張するのである。

よつて記録を精査し、尚原判決挙示の右証拠を検討するのに被告人が桜井勲よりナイロン靴下二打半及びウール着尺二十二反を買い受けたのは所論の如く昭和三十五年一月十二日であり右両物件は同時同一場所において一括してなされたものであることが明瞭である。したがつて右故買行為は単一犯として認定すべきこと、まことに所論のとおりであつて、原判決が右を二罪として併合罪の規定を適用したことは事実誤認及び法令適用の誤りであること明瞭である。併しながら被告人は右故買行為の外にも、前記桜井勲より前後六回に亘り、また南木哲四郎からも一回、いずれも盗品であるこの情を知りながら物品を買い受け賍物の故買をしているのであり、それらがすべて数罪として併合罪の関係にあることは疑いのないところで、前記ナイロン靴下及ウール地着尺の故買も右併合罪の一部であるから、右両物件の故買について、前記のような事実の誤認があり、且法令の適用に誤りがあつても、右は前記多数の犯罪の極めて少部分についてのものであつて、右各違法は未だ判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない。よつて、この点の論旨は理由がない。

二、控訴趣意第二点について、

所論は、被告人に対する原判決の刑の量定が重きに失すると主張する。よつてこの点について勘案するのに、本件は賍物故買罪であり、その窃盗本犯はその常習者と見られ、これを助長したものとして、その罪責は重く、且その回数の多い点などから、相当の刑罰を科すべきものと考えられるけれども、被告人は未だ嘗て刑責に触れたこともなく、比較的真面目にその生業に従事してきたものであり、本件については深くその非を悟つて被害の弁償もなし改悛の情も認められるので、相当期間懲役刑の執行を猶予して、自粛反省の機会を与えることを相当と認める。よつてこの点の論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。

よつて刑事訴訟法第三九七条第一項第三八一条により原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書の規定により直ちに自判する。

原判決の認定した事実を法律に照すと、被告人の行為は、刑法第二五六条第二項、罰金等臨時措置法第二条第三条に該当し、なお右は刑法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条第四八条第二項第一〇条により法定の加重をした刑期及び罰金額の範囲内で、被告人を懲役一年二月及び罰金七万円に処し、懲役刑の執行猶予について同法第二五条、罰金の換刑処分について同法第一八条をそれぞれ適用して主文のとおり判決した。

(裁判官 兼平慶之助 足立進 関谷六郎)

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